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登記名義人の表示更正登記の要否について -「己」「已」「巳」-

今回はつぎのようなケースを例に、漢字の登記について考えてみます。

(例)売主である登記名義人について、登記記録上は「巳」であるところ、印鑑証明書の記載は「已」である。売買による所有権移転登記の前提として、更正登記は必要であるか。

1.登記と漢字の問題について(前編)
2.登更正登記の要否について(後編

前編 2021/06/25更新

登記と漢字の問題

登記申請の際に、つねに神経を使うのが、お名前の漢字についてです。
当事務所では、印鑑証明書や住民票上の字のとおり登記申請をすることを原則としています。誤登記がないように努めるのは当然のことですが、漢字には無数の異字体(いわゆる外字、旧字等)が存在するため、細心の注意が必要です。

登記で特に問題になるのが、登記簿上で記録されている字と、印鑑証明や住民票上の字が異なっている場合です。何らかの変更がある場合は、つぎの登記申請の前提として登記名義人の表示変更登記が必要になりますし、誤って登記されている場合は、更正登記(訂正の登記)が必要となります(※1)
※1 万一、変更登記や更正登記を抜かして所有権移転登記を申請してしまうと、いったんすべての登記を取下げし、再度登記を申請し直すことになってしまいます。とくに売買や担保設定の登記の場合は、当初確保した受付番号(=取引の保証)を失ってしまうため、司法書士事務所としては信用問題にかかわる大事故となってしまいます。

ただし、一定の文字については、読み替えが可能で、更正登記が必要とされません。具体的には、法務省による「誤字俗字・正字一覧表」に掲げられた誤字・俗字については、印鑑証明書等が正字になっていても、登記申請の際に更正登記は不要で、また、同一証明も必要とされません。あるいは、登記簿上では正字で記録されており、印鑑証明書の氏名に一覧表中の誤字俗字が使用されている場合でも、登記名義人の表示更正登記を要しないとされています。

 

正字・俗字・誤字とは

正字とは

「康煕字典」(※2)により標準とされる文字のことをいう。
「誤字俗字・正字一覧表」の上段に掲げられる。
※2 康熙帝(清の第四代皇帝)の勅命により編纂された字書。1716年刊。約4万7000の漢字を部首・画数順に配列し、以後の辞書の基準になった。

俗字とは

正字に対して、通俗なものとされる文字。多くは字画を省略した略字。

誤字とは

字典に搭載されていない若しくは字典に誤字とある文字。新しい戸籍が改製される際には正字に置き換えられる。

 

「己」「已」「巳」の関係

ところで、今回とりあげる「巳」と「已」ですが、よく似た字として、「己」という字もあります。「己」「已」「巳」は同じようなかたちの漢字ですが、それぞれ独立した別々の字(正字)です。
ただし、以前は俗字・正字の関係とされていたことがあるようで、余計に混乱を招くことになっています。

まずは漢和辞典を見てみましょう。

  己

(読み)コ・キ・おのれ・つちのと
①おのれ。自分。私。私欲。
②つちのと。十干の第六位。五行で土に配する。
③(国)おのれ。同等以下の人をののしって呼ぶ語。

 

  已

(読み)イ・すでに・のみ・はなはだ・やむ・やめる
①やむ。やめる。中止する。終わる。辞職する。
②のみ(断定、限定の助字)
③はなはだ
④すでに。もう。

 

  巳

(読み)シ・ジ・み
①み。十二支の第六位。月では陰暦四月。方位では東南と南南東の間。時刻では午前十時、およびその前後二時間。動物ではへび(蛇)。五行では火をあてる。
②子。はらみご。胎児。

 

このように、三字はそれぞれ読みも意味も全く違う漢字であることがわかります。

さて、ここで冒頭の例に戻ります。登記記録上は「巳」、印鑑証明書の記載は「已」になっている場合において、売買による所有権移転登記の前提として、はたして更正登記が必要でしょうか?(後編に続く)

 

後編 2021/07/08更新

更正登記の要否について

前編から引き続き、このようなケースを例に、漢字の登記について考えていきます。

(例)売主である登記名義人について、登記記録上は「巳」であるところ、印鑑証明書の記載は「已」である。売買による所有権移転登記の前提として、更正登記は必要であるか。

まずは、先例をあたってみましょう。

 

先例における取り扱い

「己」と「巳」、「已」と「己」については、更正登記不要とした登記研究の回答があります。

「己」と「巳」

登記研究461号117頁
【要旨】登記名義人表示変更登記の要否
(問)登記簿上の氏名の一字が「巳」となっているが、印鑑証明書では「己」となっている場合において、更正登記は必要か。
(答)登記名義人の氏名が昭和58年3月22日民二第1501号民事局長通達による「誤字・俗字一覧表」中の誤字又は俗字で記載されているため(※3)、登記名義人の表示を正字に更正する必要はない。

 

「已」と「己」

登記研究549号183頁
【要旨】登記名義人表示変更登記の要否
(問)登記簿上の氏名の一字が「已」となっているが、「己」を正字として登記申請をするとき、誤字俗字・正字一覧表においてそれぞれ別字(正字)であるとされているため(※3)、更正登記を要すると考えるがどうか。
(答)登記名義人と登記申請人とが同一人と認められる場合、更正登記は要しない。

※3 現在の「誤字俗字・正字一覧表」には、「己」「已」「巳」のいずれについても記載がありません(平成16年10月14日法務省民一第2842号民事局長通達、平成22年11月30日民一第2905号改正による)。

 

「已」と「巳」の更正要否

さて、冒頭にあげた「已」「巳」の事例に戻ります。

今現在「己」「已」「巳」は、もとよりそれぞれ意味が全く異なる字であり、また誤字・正字一覧表からも外され、三字ともに別字として扱われているため、本来的には更正登記が必要であると考えられます。ただし、「己」と「巳」、「已」と「己」については上記のとおりの先例があることから、管轄法務局に事前照会を行いました。

回答は、以下のとおりです。
「己」「已」「巳」はそれぞれ別字であるが、以前は取扱いが異なり、「誤字・俗字一覧表」が変更された経緯もあるため、更正登記まで求めない。

 

ここまでのお話しのとおり、今回「己」と「巳」については更正不要という結論になりましたが、結局はこのようなケースにおいては、その都度法務局に事前照会を行った方がよいと思われます。

ご参考になれば幸いです。

 

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