事業承継

中小企業の事業承継について

一般的に事業承継の問題は家庭内の問題として、外部への相談に及び腰になる経営者が少なくありません。
しかし、事業承継には時間がかかります。
親族や従業員を後継者にしたい場合には、次期経営者として会社を引っ張っていけるよう教育していかなければなりません。
また、後継者が会社の株式を買い取る場合には、資金を準備する期間も必要になります。
M&Aは短期間で決着できる点がメリットではありますが、条件に合う売却先がすぐに見つかるとも限りません。
そのため、事業承継の準備は早すぎて困るということはありません。
司法書士法人いわさき総合事務所では、株式・資産承継の準備から、公的支援機関に提出する書類の作成サポート、認定経営革新支援機関(税理士)のご紹介など、中小企業経営者の事業承継のための総合的な支援を行っております。

中小企業の事業承継は日本全体の課題

日本国内の中小企業は約358万社。日本国内の企業数の99%超を占めており、雇用に関しては、国内の総雇用の約7割を中小企業が担っています。
ところが、21世紀に入り、1999年に483万あった中小企業は、2016年6月時点で358万社にまで減少しています。
これは、日本の人件費が国際的に見て高かったため、大企業が生産拠点を海外に移したことに伴い、サプライチェーンごと海外に移転してしまったことも一つの要因ですが、事業承継が円滑に進まず、廃業を選択せざるを得なかったケースが大部分だとされています。
1990年の時点で54歳だった経営者の平均年齢は、2020年に60歳を超え、年々、中小企業経営者の高齢化率が高まっています。
昨今のコロナ禍もありますが、中小企業の廃業の件数は年々増加しており、経営者の平均年齢と休・廃業の件数は相関関係があると考えられています。

中小企業庁の『事業承継ガイドライン(第3版)』によれば、後継者難により廃業する予定と答えた企業は、廃業を予定している企業の29%を占めており、後継者がいないことにより、継続する価値のある企業が廃業を選択せざるを得ないことは非常に残念なことです。

特に日本を支えてきた中小企業の廃業は、従業員の雇用、蓄積された信用やノウハウを喪失させ、工場や機械設備といった事業用資産を散逸させることとなります。
また、その会社にとって、それまで取引をしていた仕入先や納入先は取引先を失うことになりますし、その会社に融資していた金融機関は融資先を失うことになり、産業、地域経済の縮小をもたらし、ひいては日本の競争力を失わせることになります。
そこで、国等は後に述べるように、様々な支援策を用意しています。ただし、支援策には様々なハードルがあり、条件を満たすためには専門家の協力は不可欠です。

経営者の相続対策は一般の相続対策とは異なる

中小企業経営者の多くが会社オーナーであり、自社株式が相続財産となります。
自社株式を相続した相続人は相続税の納付に苦労する場合が多く、納税資金の確保や評価額の引下げ、生前贈与の実行などの対策を講じることが必要となります。
また、後継者に株式を集中させ、後継者以外の相続人の思惑により会社の経営が左右されないようにしなておかなければ、せっかく承継させた会社の価値を棄損することに繋がりかねません。
そこで、事業承継後の経営権のあり方をあらかじめ設計しておき、遺言書を作成しておくとともに、後継者となる相続人以外の相続人との間に争いが生じないよう、後継者以外の相続人にも十分な相続財産が承継されるよう準備しておくことなども必要となります。

また、会社によっては、事業用資産が現経営者の個人名義となっており、自社株式はすべて後継者に承継されたものの、事業用資産は他の相続人に相続された結果、事業用資産の利用権をめぐって争いが生じることがあり、事業用資産の承継もあわせて対策を立てておくことが必要です。

そして、事業承継において重要なのは、株式や資産の承継だけでなく、事業そのものを承継する点です。

そのため、後継者の選定・教育、信用やノウハウの引継ぎの確実に行う必要があり、そのために十分に時間をかけて準備を進める必要があります。

事業承継を阻害する3つの理由

①経営状況や事業の将来性への懸念

スムーズに事業承継できる会社は業績が好調なケースがほとんどです。黒字経営で借入金が少なければ、どこかに事業を引き継ぎたいと考える人がいるはずです。
他方で、継続的に赤字を出し、多額の負債を負っていて、将来性の無い会社では、後継者はなかなか現れないでしょう。
まずは、自社の経営状況や将来性を正しく把握するため、現状把握が欠かせません。
より正確に現状把握するには、専門家や金融機関の協力を得ると効果的です。
現状把握の段階で専門家が入っていると、事業承継の具体的な方法を検討する際、より有利な方法を提案してもらえるメリットがあります。

②後継者がいない・育成に問題がある

「我が子を後継者に」と考える経営者は多いですが、生き方の多様化や安定志向、今の仕事のやりがいなどが理由で、「会社を継がない」と選択したために、後継者不在となっている場合が多いようです。

しかし、事業に魅力があれば、後継者を我が子以外に広げることで後継者は必ずみつかります。

ただ、後継者が適任であるかどうかは別の問題です。仮に適任でない後継者であるとすると、いくら魅力的な事業であっても、結局、その事業は立ち行かなくなってしまいます。

一方で、最初から現経営者と同じように経営ができる後継者はまれだと思います。後継者は、絶対的に経験値と信用度で現経営者には敵いません。そこで、 潜在的にポテンシャルのある、将来性のある後継者を見出すことが重要になってきます。

加えて、どのタイミングで現経営者から後継者にバトンタッチするかということも考える必要があります。「心配だから」とずるずる先延ばしにすると、後継者は経営者としての自覚や経験を積み重ねることできず、安定的な事業の継続に支障をもたらすため、時期を決めてバトンタッチすることも必要です。

③事業承継のための資金が不足している

後継者が会社を引き継ぐときには、現経営者から株式や土地・建物などを含む事業に必要な資産を引き継がなければいけません。財産を譲り受けた後継者には、贈与税や相続税の支払いが発生します。
現金で一括払いしなければいけない税金のため、ある程度以上の資力が必要です。会社の規模が大きいほど税金の負担は大きくなり、事業承継が進みにくくなります。
また、後継者以外に他の相続人がいる場合、後継者のみに承継される財産が集中することで、他の相続人との間でトラブルに発展することがあります。
他の相続人から遺留分を主張され、承継した事業用資産を切り売りして遺留分侵害額請求に対応する必要に迫られたり、そもそも、不公平感を感じて、感情的な諍いに発展しかねません。

会社の株式を買い取る資金が不足することで、事業承継が進まないケースもあります。例えば従業員を後継者にする場合、十分な資金を用意できるのはまれです。

能力は十分であったとしても、株式を取得できなければ事業承継できません。対策として考えられるのは、分割での支払いや金融機関・ファンドからの資金調達などです。

公的機関による事業承継支援融資や補助金もありますので、それを用いる方法で資金を確保することも有効です。

事業承継のためにすべきこと

事業承継というと、「株式の承継」+「代表者の交代」として、税制面での株価対策やM&Aに向けての一時的な企業価値向上などに目が行きがちです。

しかし、「今ある会社を次代に受け継ぐ」という視点でとらえれば、事業承継後も安定した事業活動が継続されるように取り組んでいくべきであると考えます。

後継者が安定した経営を行うには、現経営者が培ってきたあらゆる経営資源を承継する必要があり、それは多岐に渡ります。
後継者が承継すべき経営資源は、①経営権、②財産権、③信用・知的財産の3つに分類することができ、この3つの承継を同時進行で進めます。

経営権の承認

  • 後継者の選定
  • 後継者教育
  • 代表者の交代

財産権の承認

  • 株式の承認
  • 事業用資金の承認
  • 承継資金の手当て
  • 相続人対策

信用・知的財産の承認

  • 経営理念
  • 技術や技能
  • 知的財産(ノウハウ、営業秘密、特許権など)
  • 経営者としての信用
  • 取引先との人脈
  • 顧客情報
  • 許認可

①経営権の承認

株主は基本的に1株につき1議決権を有しています。中小企業の場合には、発行済株式のすべてを現経営者もしくは家族や親族で持っていることがほとんどですので、株式を後継者に渡すことで経営権も移ります。

ただ、単に株式を承継するだけでは、安定した事業の承継は望めません。

そこで、後継者教育が必要となります。
その会社を動かすトップとなると、サラリーマンの感覚とは別物になります。経営の基礎から徹底的に教え込まなければなりません。
特に親族への承継の場合、元々はまったく異なる分野の仕事をしていたというケースもあるでしょう。そのような場合には、新入社員を育てていくのと同じようなものですので、更に時間が必要になります。

②財産権の承継

事業をそのまま進めていくためには、会社の資産、負債、株式などのすべてを後継者が引き継ぐことが一般的です。
そのなかでも、経営権と財産権を兼ね備えているのが株式です。事業承継はその会社の株式がカギとなります。

経営が好調で毎期利益が出ているような会社の場合には、株価が高額になっている可能性があります。この場合、後継者には高額な贈与税、現経営者には所得税がかかります。

そこで、後に述べるように、国は事業承継にかかる贈与税や相続税について、納税が猶予できるように事業承継税制を設けています。

事業承継にかかる税金の節税は、事前のシミュレーションが非常に大切になります。早めに専門家へ相談することが必要となります。

また、親族を後継者にする場合には、遺産分割のトラブルが起きることがあります。
現経営者の遺産が会社関係のものが大半である場合には、後継者がほとんどの財産を相続することになり、不公平が生じてしまうからです。
事業用財産を後継者以外が相続して、会社がそれを借りるという方法もありますが、経営に支障が生じる可能性が高くなります。
相続による事業承継の場合には、専門家と相談して、遺言を残しておいたり、法人化や家族信託に設定しておくのが有効です。

③信用・知的財産の承継

知的財産は株式のように形には見えませんが、経営ノウハウや現経営者が長年築き上げてきた取引先との関係や信用など、会社を今後更に発展させていくうえで最も重要な承継です。
また、業種によっては、許認可の要件を後継者自身が満たす必要があります。
例えば、建設業の場合、「経営業務の管理責任者」を置くことが必要ですが、「経営業務の管理責任者」には、建設業に関し5年以上の経営経験または6年以上の経営の補佐経験が必要です。

事業承継の代表的な3つの方法

①親族内承継

親族内承継とは、子や配偶者などの親族を後継者にする方法です。
ほかの方法に比べると後継者の選定がスムーズに進みやすく、さらにあらかじめ候補者が決まっている場合には、早いタイミングで事業承継の準備に取りかかることができます。
また、従業員や取引先など、周囲の関係者からの理解を得やすい点も親族内承継のメリットです。
ほかにも、柔軟に後継者教育を実践できる、相続で資産を承継できるなど、親族内承継にはさまざまな魅力があります。

メリット
  • 後継者選定がスムーズに進みやすい
  • 早い段階で準備を進められる
  • 柔軟な後継者教育が可能
  • 周囲の人間からの理解を得やすい
  • 贈与だけでなく、「相続」でも資産を承継できる
デメリット
  • 適した後継者がいるとは限らない
  • 甘えが出やすい
  • 事業承継をきっかけに入社した場合、教育に時間がかかる
  • 後継者候補が必要な資質を備えているとは限らない
  • 相続トラブルなど親族間の争いに発展することも

②親族外(役員・従業員)承継

社内に精通した人物を後継者に指名することで、経営の一体性を保てるというメリットがあります。
従業員からの信頼が厚い人物を選べば、承継後の混乱も避けられるでしょう。

しかし、株式を承継する方法として相続を用いることができず、後継者が株式を買い取る必要があり、親族承継に比べて資金面でのハードルが高いことが問題です。
また、個人保証などが障害となり、後継者自身が承継を拒否するケースも見受けられるため、候補者の意志を事前に確認しておくことも重要となります。

メリット
  • 経営の一貫性、一体性が維持されやすい
  • 周囲の人間から理解を得やすい
  • 経営理念や事業の進め方を理解している
  • 親族内継承に比べると、後継者候補の幅を広げられる
デメリット
  • 適した後継者がいるとは限らない
  • 個人の債務保証が重荷
  • 外部からの場合、従業員や取引先等とうまく関係が築けない場合がある
  • 資産の承継に多額の資金を要する

③M&A

M&Aは、自分の会社を他社に買収してもらう形で事業承継を進める方法です。
事業承継を目的にしていないM&Aも存在しますが、近年では後継者不足に悩む中小企業が全国的に多いことから、新たな事業承継手段として注目を集めています。

M&Aの最大のメリットといえば、現経営者の手元に売却益が残ることでしょう。
売却価格次第では、経営者の老後資金を捻出する手段としても活用でき、また、親族内承継・親族外承継に比べて、後継者候補の幅が広がる点もM&Aの大きな魅力です。

ただし、希望条件を満たす相手企業を見つけることは難しく、相手探しだけで長い期間を要するケースが珍しくありません。
また、経営方針や事業の方向性については、基本的に買収側に委ねる形となるので、経営の一体性を保てない場合もあります。

メリット
  • 経営者の手元に売却金が残る
  • 契約条件に定めることで従業員の雇用が確保される
  • 取引先に迷惑をかけずにすむ
デメリット
  • 買い手がなかなか見つからない
  • M&A仲介会社は仲介手数料が見込めない案件の場合、動きが鈍く、受任に消極的

事業承継の基本的な流れ

  1. Step01事業承継に向けた準備の必要性の認識

    事業承継を進める上で、現経営者自身のコミットメントは欠かせません。

  2. Step02経営状況・経営課題等の把握(見える化)

    事業承継を検討するにあたり、現在の状況の把握を行わなければなりません。
    会社の資産・負債の状況や株式の保有状況、現経営者の資産の状況を把握します。

  3. Step03事業継続の検討

    会社の現状を踏まえ、その事業を継続するかを決めることになります。
    この決定自体も容易ではなく、利益や資産といったように数値で測れるものだけではなく、それに関わる人たちの気持ちや生活といった点も考慮して検討します。

  4. Step04後継者候補のリストアップ

    経営スキルや資質を客観的に判断し、後継者候補をリストアップします。

  5. Step05事業承継方法の決定

    多角的な観点から自社にとって最適な方法を検討します。

  6. Step06事業承継計画の作成

    事業承継の時期や後継者教育の計画など、具体的な施策を盛り込んだ事業承継計画を策定します。

  7. Step07関係者への説明

    事業承継には関係者の理解が不可欠です。従業員や取引先・親族などの関係者に方針の説明を進めます。

  8. Step08経営改善や後継者教育

    事業承継計画に従い、会社の経営改善や後継者教育、株式等の移転を進めていきます。

  9. Step09事業承継の実施

    時期が来たら、社長の交代などを実施します。

国等による事業承継の支援策

最初に挙げた通り、中小企業の円滑な事業承継は日本全体にとっての喫緊の課題であり、政府は事業承継を支援するために、さまざまな対策を実施しています。
資金不足や法律上の制約によって生じる事業承継の問題は、公的支援策をうまく活用すれば解決できる可能性があります。

①税制面でのサポート

  • 株式、事業用資産に関する贈与税、相続税の納税猶予、免除(事業承継税制)
  • 設備投資減税(中小企業経営強化税制)
  • 中小企業事業再編投資損失準備金(経営資源集約化税制)

②資金面でのサポート

  • 事業承継、集約、活性化支援資金(日本政策金融公庫)
  • 各種の事業承継関連保証(信用保証協会)
  • 経営者保証解除サポート(事業承継・引継ぎ支援センター)
  • 事業承継・引継ぎ補助金(中小企業庁)

③法律面でのサポート

  • 経営承継円滑化法による遺留分に関する民法の特例
  • 所在不明株主の保有株式の売却についての経営承継円滑化法の特例

④後継者教育

  • 経営後継者研修(中小企業大学校)
  • 各種セミナー(ひろしま産業振興センター)

⑤M&Aマッチングのサポート

  • 第三者承継支援(事業承継・引継ぎ支援センター)
  • 後継者バンク(事業承継・引継ぎ支援センター)
  • 事業承継マッチング支援(日本政策金融公庫)
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